昔、ここには10匹以上ノラ猫が集っていた。
今はメス1匹(キジシロ猫「チビちゃん」)
オス2匹(白黒猫「タローちゃん」、キジシロ猫「お父さん」)の3匹が集うのみ。
3匹ともおとなしく、人慣れしている。
ここに毎日エサやりに来ている方にこの子たちを不妊・去勢手術することを勧めたが
「なぜかこの子たちの間に子供はできない。この3年間ここで猫は増えていない。
手術する必要はないと思う。」と言われ、手術をしてこなかった。
ところが、今年の6月、メスのチビちゃんが子猫を産んでしまったのだ。
エサやりさんいわく、3匹産まれたが、内1匹はすぐに死んでしまったとのこと。
1週間ほどしてから様子を見に行くと、チビちゃんが子育てしている段ボールの中が
アリやハエだらけで、その中で1匹の子猫が息絶えていた。
もう1匹の子もダメかと拾い上げたら、まだ私の手のひらに納まる小さなその体で
四肢をムニャムニャと伸ばし、小さなあくびをした。
それは呑気なようにも、もう弱っているようにも見えた。
病院に連れて行って後は私が面倒を見ようかとも思ったが、
この段ボールの中でチビちゃんはちゃんとおっぱいをあげ、子育てをしている。
「母猫が育児放棄しているわけではなく、ちゃんと子育てしているのなら、
その子猫は母猫に任せておいた方が良い。
もしも育たなかったとしても、母猫が育てられなかった子猫ならば、
それを人間の手で育てたとしてもやはり育たないものだから。」
という知り合いの獣医さんのアドバイスもあり、
生き残ったその子猫はチビちゃんに任せることにした。
子猫はちゃんとチビちゃんのおっぱいに吸い付いていた。
翌朝、その場所へ行くと、チビちゃんは段ボールの外に出ていた。
段ボールの中をのぞいたら、中は空だった。
昨日あんなにいたアリやハエもいなかった。
きれいだった。
先に気付いた他の誰かが、死んだ子猫は埋めてくれたのだろう。
昨日、私の手のひらの上にいたあの子は、
確かにこの手のひらの上であくびをしていたあの子猫は、
もうこの世にいない・・・
悲しかった。
ここに集う猫たちは昔から皆体が弱く、常に風邪をひいているような状態で
周囲の人々からも「あそこの猫たちは状態が悪いね」と言われてしまっていた。
今いる3匹もそうで、母猫のチビちゃんも体が小さく痩せていて
常にベロが出ていて、鼻水をたらしていることが多い。
でも、そんな、いつもはか弱く哀れなチビちゃんが、
昨日はたくましく見えた。
得意げに見えた。
「あたし、お母さんなんだよ。あたしの赤ちゃんだよ。
ちゃんと育ててるんだから大丈夫。」
そう言っているように見えた。
それが、最後の子猫が死んでしまった今日は、
こころなしか、
少ししょんぼりしているように見えた。
「あたしの赤ちゃん・・・」
「初めての子だったんだよ。
あたし、頑張ったんだよ。」
「頑張ったのに・・・」この世に産まれ出てきたのに、
次々と死んでいってしまったチビちゃんの子猫たち。
でも、この子たちは、幸せだったと思う。
一瞬でも、生きる喜びを味わえたのだから。
お母さんのおっぱいを吸いながら、
お母さんに抱かれながら死んでいったのだから。
でも
それでもやっぱり
もうこんな子猫たちを、産み出したくはない。
そう思うのだ。
最後の子猫が死んでしまった朝。
空はいつも通り青かった。
蒸し暑い日だった。*このことをきっかけに、ここのエサやりさんも不妊去勢手術の必要性を認識してくれた。
でも3匹共体が弱いため、全身麻酔による手術は危険がありそうなので、
メスのチビちゃんに発情を起こさせないようにする薬を体内に埋め込む
という手術を現在検討中。